カテゴリー「書籍・雑誌」の38件の記事

2009年12月29日 (火)

湊かなえ著「告白」読了―本屋大賞他受賞作の傑作

【感想】★★★★★
・とてつもなく面白かった。これほど印象深い作品は珍しい。これまで見たこともないような怪物作品だ。こんな作品に出会ってみたかった。

・第一章の最終ページあたりから何ともゾクゾクしだした。読み終えた途端、背筋が凍りつき本気で身震いした。

・第一章を読み終え、ストーリーが完結しているのでてっきり短編集なのかと思い、第二章に読み進むと、案に相違して物語は続いていることを知り、愕然とした。

・全部で6つの章からなるこの作品だが、それぞれが独立した内容に仕上がり、かつ全体像を構成しているという、とんでもない技を作者は使っている。6つのオムニバスとでもいうか。6つの「告白」があり、それらを統合することでさらに味わいが濃厚に。

・なるほど、数々の受賞をするわけだ。途方もなく精巧緻密なストーリー。ラストまで息をつかせる間もなく物語は展開する。読者を「告白」の世界にものの見事に引きずり込む。

・この作者、湊かなえさんはなんという想像力と文才を持ち合わせているのだろう。素晴らしい技量の持ち主だけに今後の作品に期待したい。

【受賞歴】
・2007年、「聖職者」小説推理新人賞を受賞。小説家デビュー。
・2008年、「告白」週刊文春ミステリーベスト10で第1位。
・2008年、このミステリーがすごい!で第4位。
・2009年、本屋大賞を受賞。デビュー作でのノミネート・受賞は共に史上初。

【「告白」目次】
第一章 聖職者 (「小説推理」2007年8月号)
第二章 殉教者 (「小説推理」2007年12月号)
第三章 慈愛者 (「小説推理」2008年3月号)
第四章 求道者 (書き下ろし)
第五章 信奉者 (書き下ろし)
第六章 伝道者 (書き下ろし)

【「告白」の内容】
第一章だけで既に物語は完成している。
各章、各人の告白。

第一章 聖職者――担任・森口悠子の告白
中学校の担任が、退職時にクラス全員に語る世間が知らない真実。
亡くなった自分の娘・愛美が事故死ではなく、実はクラスの「A」と「B」により殺されたこと、このふたりを裁くことを告白。

第二章 殉教者――クラス委員長・北原美月の告白
美月が森口へ手紙を書く形で語る。
事の顛末をいっさい知らない後任の新米教師・寺田良輝(ウェルテル)の愚かな対処を知らせる。不登校「B」を訪問し、ノートとメッセージを渡す。
メッセージ「人はみな、孤独じゃない、ロクでもない世の中だけど、幸せになろうよ。信じよう、ネバーギブアップ!」。実は暗号「人殺し、死ね」(頭文字を合わせる)

第三章 慈愛者――「B」の母・下村直樹の母親の告白
Bの姉が、Bの母親の書いた日記を読む形で語る。
過保護の母親が、最後まで我が子Bを弁護する盲目愛。

第四章 求道者――「B」・下村直樹の告白
「B」こと下村直樹の経緯。本人の状況説明描写。
渡辺修哉との出会いから始まり、愛美ちゃん殺害により苦悩の日々が続く。そしてあげく母親殺し。

第五章 信奉者――「A」・渡辺修哉の告白

「A」こと渡辺修哉の経緯。母親へ宛てる手紙という形で語る。
愛美ちゃん殺害の動機について。「マザコン」と罵った美月殺害するも後悔なし。母親へ切々と訴えるラブレター。たったひとつだけ手に入れたいもの、それは母の愛。

第六章 伝道者――担任・森口悠子の告白
担任・森口が教え子・渡辺へ携帯電話を通して語る。
反省の色が見えない「A」へ宣戦布告。爆弾発言、それは制裁の最後通告。我が子を奪われた母親の復讐完了。

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2009年11月29日 (日)

上橋菜穂子著「獣の奏者(2)」―読了

青い鳥文庫(講談社)より刊行。
獣の奏者(1)、(2)「Ⅰ闘蛇編」
獣の奏者(3)、(4)「Ⅱ王獣編」

獣の奏者(2)★★★★★
・時代背景や人物や人民などについての紹介が徐々に深まってくる。
・主人公エリンと、助けてくれたジョウンとの生活。
・真王(ヨジェ=国王)と、大公(アルハン=真王に仕える)について。
・闘蛇王獣の生態について。

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2009年11月26日 (木)

村上春樹著「1Q84 BOOK1〈4月―6月〉」―読了

今年話題沸騰の村上春樹著「1Q84 BOOK1〈4月―6月〉」を読み終えた。ただし1のみ。

「海辺のカフカ」と同様、2つの異なるストーリーが交互に織り交ざり、進んでいく。
半分を読み進んだ頃に、ようやく接点が出てきたようだ。
後半からは不可思議な世界が繰り広げられだした。
次元の異なる世界――パラレルワールドの語り。
今、目にしているのは現実か否か。
「1Q84 BOOK2」ではさらに謎解きが深まりそうだ。

「1Q84」村上節炸裂といったところか。
村上ファンには面白い作品なのだろうか。
本当に傑作だと思って読まれているのだろうか。
あっという間に百万部超のベストセラーとなったことに、世間は踊らされているのではなかろうか。

「1Q84 BOOK1〈4月―6月〉」扉】
ここは見世物の世界
何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら
すべてが本物になる

「1Q84 BOOK1〈4月―6月〉」目次】
第1章(青豆)見かけにだまされないように
第2章(天吾)ちょっとした別のアイデア
第3章(青豆)変更されたいくつかの事実
第4章(天吾)あなたがそれを望むのであれば
第5章(青豆)専門的な技能と訓練が必要とされる職業
第6章(天吾)我々はかなり遠くまで行くのだろうか?
第7章(青豆)蝶を起こさないようにとても静かに
第8章(天吾)知らないところに行って知らない誰かに会う
第9章(青豆)風景が変わり、ルールが変わった
第10章(天吾)本物の血が流れる実物の革命
第11章(青豆)肉体こそが人間にとっての神殿である
第12章(天吾)あなたの王国が私たちにもたらされますように
第13章(青豆)生まれながらの被害者
第14章(天吾)ほとんどの読者がこれまで目にしたことのないものごと
第15章(青豆)気球に碇をつけるみたいにしっかりと
第16章(天吾)気に入ってもらえてとても嬉しい
第17章(青豆)私たちが幸福になろうが不幸になろうが
第18章(天吾)もうビッグ・ブラザーの出てくる幕はない
第19章(青豆)秘密を分かち合う女たち
第20章(天吾)気の毒なギリヤーク人
第21章(青豆)どれほど遠いところに行こうと試みても
第22章(天吾)時間がいびつなかたちをとって進み得ること
第23章(青豆)これは何かの始まりに過ぎない
第24章(天吾)ここではない世界であることの意味はどこにあるのだろう

【読字障害=ディスクレシアについて―引用】
(P.180)
まず第一にふかえりは自分で『空気さなぎ』を書いたのではない。彼女が言うことをそのまま信じるなら(信じていけない理由は今のところ思いつけない)、ふかえりはただ物語を語り、別の女の子がそれを文章にした。成立過程としては『古事記』とか『平家物語』といった口承文学と同じだ。その事実は天吾が『空気さなぎ』の文章に手を入れることの罪悪感をいくらか軽減してはくれたものの、全体として見れば事態をさらに――はっきり言えば抜き差しならないほど――複雑化させていた。
そして彼女は読字障害を抱えており、本をまともに読むことができない。天吾はディスクレシアについて持っている知識を整理してみた。大学で教職課程をとったときに、その障害についてレクチャーを受けた。ディスクレシアは原理的には読み書きはできる。知能は問題ないとされる。しかし読むのに時間がかかる。短い文章を読むぶんには支障ないが、それが積み重なって長いものになると、情報処理能力が追いつかなくなる。文字をその表意性が頭の中でうまく結びつかないのだ。それが一般的なディスクレシアの症状だ。原因はまだ完全には解明されていない。しかし学校のクラスの中にディスクレシア子供が一人が二人いたとしても、決して驚くべきことではない。アインシュタインもそうだったし、エジソンもチャーリー・ミンガムもそうだった。
読字障害を持った人が文章を書くことにおいても、文章を読むときと同じような困難を一般的に感じるのかどうか、天吾は知らない。しかしふかえりのケースについて言えば、どうやらそういうことらしい。彼女は書くことについても、読むのと同じ程度の困難さを覚えている。

【「1Q84」について―引用】
(P.202)
もちろんすべては仮説に過ぎない、と青豆は歩きながら考えた。しかしそれは今のところ、私にとってはもっとも強い説得力を持つ仮説だ。少なくとも、より強い説得力を持つ仮説が登場するまでは、この仮説に沿って行動する必要がありそうだ。さもないとどこかに振り落とされてしまいかねない。そのためにも私が置かれているこの新しい状況に、適当な呼び名を与えた方が良さそうだ。警官たちが旧式のリボルバーを持ち歩いていたかっての世界と区別をつけるためにも、そこには独自の呼称が必要とされている。猫や犬にだって名前は必要だ。この変更を受けた新しい世界がそれを必要としていないわけはない。
1Q84年――私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう。青豆はそう決めた。
Qは question mark のQだ。疑問を背負ったもの。
彼女は歩きながら一人で肯いた。
好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。今は1Q84年だ。空気が変わり、風景が変わった。私はその疑問符つきの世界のあり方に、できるだけ迅速に適応しなくてはならない。新しい森に放たれた動物と同じだ。自分の身を護り、生き延びていくためには、その場所のルールを一刻も早く理解し、それに合わせなくてはならない。

【「1984年」について―引用】
(P.421)
「ジョージ・オーウェルは『1984年』の中に、君もご存じのとおり、ビッグ・ブラザーという独裁者を登場させた。もちろんスターリズムを寓話化したものだ。そしてビッグ・ブラザーという言葉(ターム)は、以来ひとつの社会的アイコンとして、機能するようになった。それはオーウェルの功績だ。しかしこの現実の1984年にあっては、ビッグ・ブラザーはあまりにも有名になり、あまりにも見え透いた存在になってしまった。もしここにビッグ・ブラザーが現れたら、我々はその人物をさしてこう言うだろう、『気をつけろ。あいつはビッグ・ブラザーだ!』と。言い換えるなら、この現実の世界にもうビッグ・ブラザーの出てくる幕はないんだよ。そのかわりに、このリトル・ピープルなるものが登場してきた。なかなか興味深い言葉の対比だと思わないか?」

【チェーホフの名言―引用】

(P.472)
「小説家とは問題を解決する人間ではない。問題を提起する人間である」

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2009年11月 5日 (木)

東野圭吾著「さまよう刃」読了―最愛の人を奪われた時、あなたはどうしますか?

父親は犯人を追う。刑事は、父親を守りたかった。

正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。

【一口メモ】
東野圭吾著「さまよう刃」、150万部突破のベストセラー。
2009年10月、映画化。
少年法を鋭く問う衝撃作。

【感想】★★★☆☆
東野作品としてはやや物足りなかった。
結末も、こういう終わり方しかないだろう、と予想どおりというか・・・

現在の少年法には確かに疑問が多すぎる。
ともすれば被害者をないがしろ、そして加害者を擁護、といった傾向にあるのは事実だ。
そんな少年犯罪のもたらす悲劇が、この著書ではストレートに描かれている。

極悪非道な少年達・カイジ、アツヤにより、最愛の娘を奪われた父親・長峰重樹が復讐の鬼と化す。
長峰が警察に宛てた手紙、この一文が本書の主軸。
父親の凄まじい激情にかられた心理を、極限状態を、見事に描かれた作品。
長峰に同情は禁じ得ないし、諸悪の根源はカイジ、アツヤなのは誰の目にも明らかではあるが、ストレートすぎて、ひねりが感じられなくて・・・

現代社会に問題を投げかけた話題作なんだろうが、東野ワールドの傑作とも思えず、平凡に思えるのは気のせいか・・・

【長峰が警察に宛てた手紙】
(P159)・・・
動機は、これまたお話する必要もないかもしれませんが、娘の復讐です。
妻を何年も前に亡くした私にとって、絵摩は唯一の肉親です。かけがえのない宝でした。彼女がいたからこそ、どんな苦しいことも耐えられましたし、これからの人生に夢の抱くこともできました。
そんな何ものにも代え難い宝を、伴崎敦也は私から奪いました。・・・・
・・・・
未成年者の更生を優先すべきだ、というような、被害者側の人間の気持ちを全く無視した意見が交わされることも目に見えています。
事件の前ならば、私もそうした理想主義者たちの意見に同意したかもしれません。でも今の考えは違います。こんな目に遭って、私はようやく知りました。一度生じた「悪」は永遠に消えないのです。たとえ加害者が更生したとしても(今の私は、そんなことはあり得ないと断言できますが、万一あったとしても)、彼等によって生み出された「悪」は、被害者たちの中に残り、永久に心を蝕み続けるのです。・・・・

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2009年10月28日 (水)

上橋菜穂子著「獣の奏者 (1)闘蛇編」―至高のファンタジー

【感想】★★★★★
見事なファンタジーだ。
見たこともない情景が瞼の裏に広がる。
想像が次から次へと頭を巡る。
10歳の孤児エリンが逆境にもめげず、健気に生きていく姿は胸を打たれる。
1冊目を読んだだけでワクワクする内容。今後の展開はどうなるのだろうと興味津々。

【書籍】
青い鳥文庫(講談社)
「I 闘蛇編」と「II 王獣編」を分冊して刊行。
文庫本型のコンパクトサイズ。すべての漢字にルビ。難解用語はカッコ書きで注釈入り。児童向けではあるが、気軽に読めるので大人でもオッケーだ。

【「獣の奏者」について】
・「I 闘蛇編」「II 王獣編」「III 探求編」「IV 完結編」の全4巻から構成。
・「リョザ神王国」と呼ばれる異世界の地を舞台とするファンタジー巨編。
・上橋菜穂子氏が、2006年11月~2009年8月に発表。
・NHK教育テレビで、2009年1月から放送中。

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2009年10月24日 (土)

イケダケイ著「全力ウサギ」第4工事・上司部下取扱注意編

【感想】★
4作目は新人「シンマイ」の登場。
オヤカタは、
ミナライにシンマイの教育係となるよう任命する
シンマイは極度の人見知りだ、そして何か事情がありそうだ。
一生懸命、シンマイに近づこうとするミナライ。
新たなる試練に立ち向かうミナライ。
そして個性豊かな全力工務店の仲間たち。
ちょっぴり過酷なストーリーもありながら、ほのぼの感満載


【工事計画表】

着工:全力プロローグ
第1工事:日々是全力
第2工事:全力的波紋
第3工事:全力ライフ(1)
第4工事:全力的距離
第5工事:全力男女酒(1)
第6工事:全力歓迎会
第7工事:全力ライフ(2)
第8工事:全力的事情
第9工事:全力的男女酒(2)
第10工事:全力工事
第11工事:全力ライフ(3)
第12工事:思いやる全力

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だからミナライは、今まで仲間たちが自分にしてきてくれたように
今度は自分が仲間たちのことを全力で支えていきたいと思ったのです。

今自分がここにいることが幸せであるように
仲間たちも幸せであるように全力で願うこと。

今はまだそれくらいのことしかできないけれど
でもこの先ずっと変わらずそれを願い続ける自分でいようと思ったのです。

なぜなら自分に関わったすべての人が
いつも笑顔でいられることが
きっと自分の幸せでもあると思うから。

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2009年10月11日 (日)

北村薫著『鷺と雪』―第141回直木賞受賞作、読了

昭和初期を舞台にした歴史ミステリー
「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」からなる3部作
これらは個別の短編で、相互の関連性はない
時代考証をしっかりとした史実を元に、フィクション仕立ての軽妙洒脱な作品

女子学習院に通う士族の令嬢である花村英子と、そのお抱え女性運転手であるベッキーさんこと別宮(べっく)みつ子が主人公

ミステリー小説の分野なのだろうが、本格派というものでない
殺人はなく、不思議な出来事に疑問を抱き、英子とベッキーがその謎を解明していく
受賞作「鷺と雪」での能の舞は美しい

【感想】★☆☆☆☆
直木賞受賞作品ということで読んでみた
好みに合わなかった
ストーリーが古臭い、主人公が探偵っぽくない、謎そのものに興味がわかない
う~ん、直木賞って・・・・わからない・・・・謎だ・・・・

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2009年10月 6日 (火)

川上未映子著「ヘヴン」―読後感想

初めて芥川賞作家川上未映子氏の作品を読んでみた。
「ヘヴン」(これは芥川賞にあらず)。ヘブンではなく、へヴン。
天国という意味なのか?と思索しつつ読んでみる・・・
主人公は『僕』という一人称で終始する。中学生男子。

僕が差出人不明の手紙『わたしたちは仲間です』を受け取ったところから話は始まる。
謎の手紙の主は同級生の女子、コジマ。
共通点、二人ともいじめられっ子。誰からも相手にされず、徹底的に苛め抜かれる。
救いがない日々。悲惨な情景が目に浮かぶ。
二人が同じ境遇であることから、互いに理解し合い、絆を深めていく。
傷をなめ合うのかと思いきや、コジマは「ヘヴン」を僕に見せ、独自の世界に導く。

これはきつい内容の本を手にしてしまった。しばし後悔。
はて、どうしたものか、読み続けたものかどうか・・・
と悩みつつも読了。
リアルにこうした苛めはあるのかもしれない。そうも思う。
苛められる側の内面を深く追求。
肉体的に、精神的に極限まで追いつめられた人の心の叫びが伝わってくる。

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2009年10月 1日 (木)

天童荒太著「悼む人」―読後感想、心の琴線にふれる不朽の名作

【感想】★★★★★
『悼む人』――2009年1月、第140回直木賞を受賞作品。

久々に心を揺さぶられる本を読んだ。
魂に響いてくる内容である。
天童荒太氏、2001年から構想7年かけての渾身の作。
装丁は、舟越桂氏の彫塑「スフィンクスの話」。天童氏自身の撮影による。

坂築静人、死者を悼む旅物語。
人の死を、信仰や宗教という概念で押しつけるのではなく、純粋にただひたすらに悼む。
血縁でもなく、友人知人でもない赤の他人までをも悼むという行為。

読んでいる間、途方もなく辛かった。胸が痛くなった。
生と死を考えさせられた。
人との繋がりを振り返った。
人生とはなにか、と自問自答した。

終末でようやくほっとした。救われた思いがした。
読み終えて、「悼む」ということを真摯に受け止めようと心の底から感じた。

他人に無関心であったり、凶悪な事件があったり、自殺者が後を絶たなかったり・・・・
そんな殺伐とした世の中において、この作品は是非読んでおきたい1冊である。

【「悼む人」――引用】
・・・・
人が亡くなった場所にを訪ね、故人への想いをはせる行為を、静人は初めて「悼む」と表現した。言葉の意味を問うと、冥福を祈るわけではなく、死者のことを覚えておこうとする心の働きだから、祈るより「悼む」という言葉が適切だと思って、とぼそぼそと力ない声で答えた。

静人は、はにかむようにほほえんだ。或る死者を覚えておくとき、死の悲惨さや悲哀ではなく、亡くなった人物の肯定的な面を取り上げて、覚えるようにしたという。肯定的な面といっても、人によって考えが変わるだろうと思うが、静人は何十人、何百人と死者についての話を聞くうち、どんな人物でも肯定的にとらえ得る要件として、三つのことが残ったと話した。
「その人は、誰を愛したか、誰に愛されたか。どんなことで人に感謝されたことがあったか」
毎日数人ずつ死者を訪ねてゆくなかで、この三つを知ることができれば、ほかと違った人物として一人一人を心に残していける。さらに大事なことは、たとえその人が病人であろうと、障害を抱えていようと、仕事の有る無しも関係なく、また人生経験の少ない子ども、あるいは赤ん坊であっても、この三つの要件なら何らかのかたちで満たし得るということだった。

もちろん死者の話を誰にも聞けない場合もある。その際も、要件のうち一つでもよいから見いだし、心に刻む。ときには、こじつけや誤解もあるだろう。それで もよい、と思えたのは最近だった。人と人との関係は元々思い込みの積み重ねかもしれないのだから、こじつけや誤解を恐れるより、まずその人を覚えることに 重きを置く、と気持ちが決まってきたという。
・・・・

【天童荒太氏の語り】
「多くの人々の死にふれ、悲しみを背負いすぎて、倒れてしまった人」「何もする気になれず、ただただ悼んでいる」
以来7年間、この人物と向き合ってきました。初めは倒れて動けない状態にいた「悼む人」が時間とともに、からだを起こし、自分の内面と周囲の出来事を見つめ直して、恐る恐る外へ向かって足を踏み出し、やがて思いもよらない悼みの旅へ出ていきました。

彫刻家、舟越桂氏の作品「スフィンクスの話」
その姿は清新かつ妖しく、寛容なのに気品があり、無垢でいて謎に満ちている。「悼む人」の精神的な象徴があらわれているように思い、以来このときの写真を机に置いて執筆をつづけました。

参考資料だけでなく、日々現実に亡くなった方々の報道は、さまざまな形でこの作品に影を落としています。

【文藝春秋 『悼む人』特設サイト】
http://bunshun.jp/itamuhito/

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2009年9月28日 (月)

東野圭吾著「幻夜」―読後感想、ミステリーの最高峰

【感想】★★★★★
名作「白夜行」の続編といわれる「幻夜」を読んだ。
今作も不朽の名作。
「白夜行」を読了していると、伏線がわかりやすい。
ラストの鮮やかな演出は見事の一言に尽きる。

「幻夜」のヒロイン、新海美冬とは――
キーワードは『風と共に去りぬ』の主人公「スカーレット・オハラ」。
美貌のヒロイン。強く生き抜く女。妖艶な女。近寄る男を翻弄する女。
必要とあらば何人をも踏み台とし、周到に台本を練り上げ、そして実行する。
目的のためには手段も選ばす、非情を繰り返す。
ひるむことなく成功を得て、勝者に成り上がっていく、貪欲なまでの執着。
しかしてその実態は・・・・。

美冬・・・。読み進むにつれゾクゾクしてくる。そして魅せられてしまう。
ミステリアスな美冬がラストまで正体不明という、抜群のシナリオ。
ミステリー界の王者、東野ワールド、炸裂。
美冬を、希代の悪女を演じることが出来る役者は、アカデミー賞女優級でなければ無理だろう。

3部作だという。
「白夜行」、「幻夜」ときて、続編はいつ頃だろう。気になる。大いに気になる、最終部が!
雪穂の店「R&Y」、美冬の店「ホワイトナイト」(=白夜)ときて、次の店は「幻○○」??

【「幻夜」の意味――作中の引用】
・・・・(P.270)
「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
意味がよくわからず雅也は彼女を見た。
「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」
・・・・

・・・・(P.775)
なぜ裏切った。なぜ俺の魂を殺した。自分たちには昼なんかないとおまえはいった。いつだって夜だとおまえはいった。夜を生きていこうといった。
それでもよかった。本物の夜ならばよかった。だけどおまえはそれすら与えてくれなかった。俺に与えられたのは、すべて幻だった。
・・・・

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